【自作】”TriTra” – トランジスタ3石だけの高音質ヘッドホンアンプ

TriTra Circuit

“TriTra” – Triple Transistor Headphone Amplifier

こんにちは。たけやぶです。久しぶりのブログ更新です。
新しくシンプルなヘッドホンアンプ “TriTra” – Triple Transistor Headphone Amplifier を設計してみました。
トランジスタ3石だけで、オペアンプも使いません。
それでも音はピカイチです。
前のOP1Tr以上の解像感ですよ!

この場をお借りしまして、浮動バイアス方式を考案された平野拓一先生に深くお礼を申し上げます。

 

【きっかけ】

ネットを見ていたら偶然「浮動バイアス方式」なるアンプの回路図を見つけました。現在は東工大の助教であられる平野拓一先生が、大学生の頃に考案されたようです。

浮動バイアス方式アンプ

浮動バイアス方式アンプ(平野 拓一 「オーディオ用浮動バイアス方式アンプ
」より引用)

リプルの多いAC-DC電源での使用を考えます。上図のような回路で”bias”をVdd/2の抵抗分圧につなぎます。この”bias”はアンプから見て基準電圧となります。上下のアンプに加わる基準電圧がリプルで揺れても、同相で加わってキャンセルされるため、スピーカーからはリプルのジー音が鳴らないという仕組みです。

これは面白い!と思い、自分のOP1Trを並べてAC電源で鳴らして見ました。確かにジー音が鳴りません。ChuMoyではジー音が鳴ります。ひとつ目の実験はこれで終わりました。

しかし、この回路を実現するに当たって、2回路のオペアンプを使うのが煩わしくなりました。というのも、ChuMoyなどでは2回路のオペアンプひとつで済むところを、浮動バイアス方式では3回路必要になるため、2回路のオペアンプを2つ用意しなければなりません。しかもその4回路のうち1回路は無駄になるわけです。だからと言ってシングルのオペアンプだと3つ用意しなければならなくなり、より回路規模が大きくなります。(そのくらい我慢して作れよ、という感じですが笑)

ですので、なんとか「同じ仕組みを少ない部品で実現できないか・・・?」と思った訳です。

そもそもヘッドホンアンプは「電流増幅」するだけでいいですから、オペアンプを使わずともトランジスタのエミッタフォロワで充分なはずでした。しかし、ベース-エミッタ間電圧0.7Vが邪魔をして、DCアンプは作れません

「じゃあ、LとRにはカップリングコンデンサを噛ませて、GNDはエミッタフォロワ直結でいいか・・・ん?

気づいてしまったのです。LもRも0.7V下がりますが、GNDも0.7V下がるから、ヘッドホン側から見たら電位差0Vになることを。

こうして今回の回路が生まれました。

 

【回路の解説】
TriTra Circuit

“TriTra” – 回路図

      この回路の利点を並べて見ましょう。

 

  • 入出力DC結合
  • 9V単電源
  • トランジスタ3石

これだけの条件を同時に満たせるアンプなんて他には無いんじゃないですかね笑

このアンプの最大の特徴は、ヘッドホンのGND端子がトランジスタで強力にドライブされていることです。
普通のアンプはLとRはドライブしても、GND端子は電源直結です。両電源の0Vに直接GND端子をつないでいると、一見安心です。GNDは「充分」低インピーダンスのはずであり、VccとGNDは交流的に短絡しているはずですから。しかし実際はヘッドホンのGND端子から流れ込んできた電流はだらしなく電源の内部抵抗やデカップリングコンデンサの内部インピーダンスに流れ込み、電位差を生じ回路全体を揺らすのです。しかもこのときLとRの電流が混ざって電源に侵入するわけですから、クロストークが悪化します。

そこで、今回の浮動バイアス方式のようにヘッドホンのGNDをトランジスタで交流的にVccと短絡してあげて強力にドライブすることで、分離感の優れたアンプとなったと考えられます。

浮動バイアス方式をきっかけに、負荷の両端をきちんと制御してあげることの大切さを知りました。

【音質】

前回のOP1Trもなかなか制動感のある鳴りで好きでしたが、“TriTra”と比べてしまうと分解能も低く、音が伸びやかではありません。
今回の”TriTra”は音の詰まった感じが全くなく、聴いていて耳が痛くなりません。
そして、左右・高音低音の分離感がとてもよく、とてもリアルな音がします。
まるでバランスアンプのような鳴りです。
トランジスタ単発ですので若干制動感が物足りないと感じる時もありますが、これはダーリントンにしたりOP1Trのようにオペアンプのループ内に入れてさらに強力にドライブしてあげれば改善しそうな予感がします。

【問題点色々】

この回路、シンプルさを重視したために結構危険なことしてます。twitterの@hn12v1_jpさんの一連の指摘をご覧ください。
● DCオフセットがかなり大きい
トランジスタのhfeが100〜200程度なので、L/Rのトランジスタのベースから電流が漏れることにより、10kΩのボリュームに電位差が生じ、定常的にオフセットが生じます。

● ヘッドホンGNDがそもそもそんなに低インピーダンスじゃない
回路図右上のGND生成用トランジスタのベースにつながっている抵抗10kΩの抵抗値が高い為に、出力インピーダンスが(10kΩ並列)=5kΩ の x1/hfe →50Ω程度と高いです。指摘の通り、よくよく聴くと「逆相クロストーク」による擬似サラウンドっぽくなっています。センターボーカルの存在感がOP1Trに少し劣ります。それでもChuMoyの単なる抵抗分圧よりずっとマシですが笑 だからと言ってこのベースの10kΩを小さくし過ぎると・・・これはこれで確か変な音だったような・・・?(検証中)

以上のような問題の解決策としては、トランジスタをダーリントン接続にしてhfeを稼いだり、オペアンプと組み合わせたりなどが考えられます。

【よくありそうな質問】

● 電源電圧は変えてもいい?
変更したい場合は、次に従って下さい。
5V〜18VくらいまでやっぱDCオフセットが怖いので9Vまで!・・・回路のまま無変更で大丈夫です。ただし。パイロットランプのLEDに直列に入っている抵抗は1kΩ以上でトライ&エラーしてみて光量を調性して下さい。
あんまり電源電圧を上げ過ぎると、出力オフセットが無視できなくなりヘッドホンに数Vもの直流電圧がかかる恐れがあるので、欲張って電源電圧を上げすぎないで欲しいです。
5V〜2.4V・・・定電流ダイオードCRDをそれぞれ1つずつ並列で増やして下さい。OP1Trの回路図が参考になるかと思います。

● 電池じゃなくてAC-DC電源でもいい?
大丈夫です。たっぷりと浮動バイアス方式の恩恵を受けて下さい。

● ボリューム不要なんだけど
LとRのトランジスタのベースを必ず10kΩの抵抗を介してGND用トランジスタのベースに接続して下さい。回路図的にはボリューム最大の時と同じになりますね。絶対にLとRのベースを浮かしたままにしないで下さい。入力を接続していない場合を想像するとベースが完全に浮くことになり、何が起こるか分かりません・・・

● トランジスタは変更できる?
できます。NPNバイポーラトランジスタなら大体なんでも使えます。hfeで必ず特性の揃ったものを選別して下さい(Vbeが揃うため)。でないとDCオフセットが大きくなってしまいます。PNPも回路を工夫すれば使えるはずです。考えてみて下さい。
FETやMOSFETでは検証していません。Idssで選別したあとトライしてみて欲しいです。くれぐれもヘッドホンを壊さないように・・・笑
必ず3つとも同じ型番のトランジスタを使用して下さい。

● CRDが手元にないんだけど?
CRDを単なる抵抗に置き換えることもできます。抵抗に流れる電流が15mA10mA程度になるように抵抗値を決めて下さい。音はCRDの時の方が良いです。
計算式:
抵抗の両端にかかる電圧Vr[V]=Vcc/2 – 0.7V
抵抗値[Ω] = V/I = Vr[V]/0.010[A]

● 電源のコンデンサはおすすめある?
ちゃんと動けばもはや何でもいいです。というのも、デカップリングコンデンサに頼らずGND線を低インピーダンス化できているため、コンデンサの音の癖が出にくいからです。1uFのような小容量で充分です。ただし必ず付けるようにはして下さい。外すと発振したりDCオフセットの原因になります。

【最後に】

是非みなさんも作ってみて下さい! 素朴な回路ですがきっと度肝を抜かれることでしょう笑

他にも質問あればコメントからどうぞ。

※この回路を制作したことによる責任は一切負いません。くれぐれもいきなりヘッドホンをつなぐ前に、DCオフセットが最大でも0.2V程度であることを確認してから使用するようにして下さい。(イヤホンなら既にアウトかも知れない)